海浜動物医療センターとしての想い


4つのテーマが実現できる病院づくり

 2006年に新築移転しましたが、その構想は10年以上前から検討していました。獣医師としての30数年間と自分がたくさんの動物を飼ってきた経験の中で、こういう病院だったらいいなという理想の病院を創りたいという想いがあります。

 獣医師であれば皆思うでしょうが、最高水準の診療ができる病院。
 夜間や緊急にきちんと対応して欲しい、それに対応できる病院。
 毎年進歩する獣医療、高度医療にも対応できる病院。
 しつけ問題や集合住宅での問題、ペットロスの問題などペットを飼う上で起こるさまざまな問題にきちんと対応できる病院。

 この4つのテーマが実現できる病院であったら良いなと。すぐには無理かもしれませんが、理想の病院づくりを目指して努力しています。


アメリカの動物病院視察

 4つのテーマの具体例や成功例を見たくて、アメリカの大学病院と規模の大きな病院を中心に20件ほどの病院を視察に行きました。その結果感じましたのは、間違いなく将来は日本でも大きな規模の病院のニーズがあるということです。
 個人的な病院、ショッピングモールにある病院、大病院を視察しましたが、病院ごとの役割分担ができている、獣医療のインフラがある程度整っている現状を見てきました。ショッピングモールにある病院はどちらかといえばサービスを主にしている病院であったり、個人病院は地域のドクターとしての役割を果たしているし、そのような病院が対応できない部分を専門病院や総合病院がそれを引き継ぐ、それぞれの役割分担があって引き継ぎされています。
 しかし、日本ではそうではない。日本ではたくさんの動物病院がごく一部の例外を除いて、一次診療の上に2次診療であるべきものまで担ってきた現状があります。このままでは今後は絶対に不可能だと常々肌で感じていましたが、アメリカや諸外国の事例を知るにつけ役割分担が必要であると確信したわけです。

獣医師一人での限界

 獣医療は日進月歩で常に前に進みます。より高度なもの、より良いものというニーズは永遠に続くわけです。提供する側としては、それに応えようとするのは当たり前のこと。限りなく進む高度医療に対して一人の獣医師がすべての分野に精通するのは不可能な時代になりました。特にインターネットの普及に伴い、飼い主さんが病院に来る前に“こうだろう”という病気の情報を得て病院に来院し、診断の結果をまた家に帰って確認するという時代になりました。原因は何か、予後はどうか、原因究明と正しい治療と良い結果を常に突きつけられています。ワクチンから末期がんまで、幅広い分野にすべて対応しなければなりません。
 しかし、一人の獣医師では限界があって、すべてに対応するのは無理です。
一人の獣医師がすべての病気に精通しているわけではなく、それぞれの先生が得意と苦手な分野を持っています。得意分野であれば良い先生、苦手な分野であれば良くない先生という評価をされます。信頼されている飼い主さんから常に良い評価を得たいために、それぞれの先生方が毎日必死になって勉強し、努力しています。獣医師一人が背負わざるおえない環境を変えなければ、獣医師一人に対するストレスや負担が多過ぎます。獣医師にとって非常に苦しい時代になったとも言えます。

当院が目指しているもの

 人の医療やアメリカの獣医療のように役割分担ができたら一番良いだろうなと思っています。そこで、当院が目指しているのは、一般臨床医や総合医が患者さんの一番の窓口、かかりつけ医として一次診療に携わり、二次診療的なものは院内の専門性の高い先生や専門医に引き継ぐチーム医療が理想と考えています。

かかりつけ医や総合医に必要な要素は、必ずしも高度な医療水準ではなく、コミュニケーション能力が高く、飼い主さんの望んでいることをきちんと把握できることが一番大切になります。十分な説明と治療を求めている飼い主さんもいれば、説明はいいので結論だけ聞きたい飼い主さん、料金が一番問題な飼い主さんなど、望んでいることはさまざまです。飼い主さんの望みを十分聴き分けられることが必要になります。
当院では、一般臨床家として専門性を持つ勤務医とあくまでも一次診療の勤務医、さらに専門だけに特化する専門医がいる獣医集団をつくり、総合医と専門医とのチーム医療体制の構築を目指しています。

 私たちは、獣医大学を卒業して3年ぐらいは直接現場で総合的な臨床医としての勉強をすべきだと考えています。実際に臨床の現場で数年経験して初めて自分がどの分野が向いているかわかると思います。 卒業後3年ぐらいは一般診療に携わり、その上で興味のある分野に進み、総合医をやりながら専門性を高めるという先生もいれば、一般診療を完全に卒業して専門だけに特化するという先生も必要です。
  外科志向の強い先生には、できれば外科だけをやってもらうべきだと思っています。それぞれの特性に応じて対応できるようにしていきたいと考えています。


今後の取り組み

 アメリカの動物病院を視察した7割の病院にはマネジャーがいました。院長としての医療に対する役割とマネジャーとして病院運営に関するマネジメントの役割がきれいに分かれ、一つの病院の中でも役割分担が明確になっています。

 当院でもここ何年かマネジャー的な存在をいろいろ探してきましたが、昨年やっと見つかり、常勤で入職いただきました。人の医療を経験した方で、人の医療のノウハウを生かして、動物病院経営に新しい視点で戦略的な経営ができるように経営企画室を新設しました。それと同時に、新しい研修制度の構築や勤務医制度を充実させるための院内体制の改革や仕組みづくりをスタートしました。今年から新しい海浜動物医療センターに生まれ変わります。
 また、チーム医療体制の構築を目指して、専門科を確立しつつ、当院の勤務医が専門性を勉強できる体制を創っていきたいと考えています。現在、専科としては腫瘍科が確立されつつあり、獣医腫瘍科認定医1種および2種を取得している先生に週数日来ていただいています。その他、整形外科の先生などにも来ていただいています。当院の勤務医の中でも、循環器や画像診断、皮膚科の専門性を高めるために大学や専門病院に週数日勉強に行っている先生もいます。今後については、外科や皮膚科、歯科、眼科、猫専門科などの専科を確立し独立させていきたい。そのためにも、週数日以上勤務いただける専門医や専門性を持った先生を募集しています。

新しい研修制度

 覚えることが膨大になればなるほど、現場だけで見て覚えることが不可能になってきています。そこで、内部研修制度と外部研修制度に分け、当院だけではできないことを多くの獣医大学をはじめ、専門病院や他の機関と連携しながら、当院スタッフを外部で研修させていきます。

内部研修の一環として、昨年秋にはアメリカの内科専門医をお招きして研修会も開催しました。今後もいろいろな先生をお招きして、内部研修の充実を図っていきます。

獣医学生へのアドバイス

 カリフォルニアの獣医大学の受験条件が1,800時間以上の実習経験が必要であると聞いています。アメリカの獣医大学には、入学前にたくさんの動物病院などで多くの体験を積んでいる人たちが獣医大学に入ってきます。現場や臨床家の実態を知った人たちが獣医師になります。しかし、日本の獣医大学ではそのような制度がなく、イメージだけで入学してきます。そこで、学生時代に多くの経験や体験をすることをお勧めします。

多くの経験をすることで、自分の進路なり、自分の行くべき道が明確になると思います。学生時代忙しいとは思いますが、動物病院をはじめ、小動物以外も含めて多くの現場を見て、体験して欲しいと思います。そして、早い時期に自分の向いている分野を見つけて欲しいと思います。

新しい獣医療環境への適応 ・・・3テーマの実現

 今の獣医療環境の変化とニーズに対応できる病院として、3つの新しいテーマを実現しました。

第一に予防医療外来を新設いたしました。毎年実施している狂犬病予防注射、混合ワクチン注射、フィラリア予防、ノミ・マダニ予防、定期健康検査などは、一般診療の患者様と同じ診療形態の中で混合診療をしていることに矛盾とジレンマを感じていました。獣医師が1日に診療できる患者数は限られています。当然のように混合診療の中で行われる一般診療は診療時間が限られ、満足いくような診療になるよう努力をしてまいりましたが、常々限界を感じておりました。予防診療に来院される患者様には、病気でないのに混合診療の中で2時間待ちの10分診療というご負担をおかけし、大変申し訳なく感じておりました。これらを同時に解決するため、一般外来と予防医療外来を分離していくことを始めました。当面は。ニーズの範囲にとどめ、順次定常化できればと考えております。

第二にフードチームによるフードカウンセラーの常駐化です。フードはペットショップやホームセンターでも販売しておりますが、動物病院でお勧めするフードとは、どうあるべきなのかから考え直し、私たちは、フードに関する専門性を高めるため、多くの時間を費やして養成した専門家によって、あらゆる質問と問題に対してカウンセリングを行い、安心してお買い求めいただけることを第一といたしました。いつでも気軽にお越しいただき、どのような質問にもお応えさせていただく、それを信頼と安心にかえてペットの健康を第一に考えるプロショップのあり方と考えています。
第三に高齢犬チームとリハビリチームの新設です。ペットの医食住環境は年々良くなり、長寿高齢化しています。疾病においては高齢化特有の疾患が増加し、家庭での介護も必要とされる時代になってまいりました。特に大型犬においては、運動能力の低下と疾病によって寝たきりとなるケースもあり、自宅療養の方法など飼主様に対して適切な指導も重要な私たちの責務と感じております。これらに対応すべく維持期におけるリハビリや高齢介護も踏まえ、チームによって対応させていただくことといたしました。リハビリチームにおいては、整形外科疾患の術後対応などを重点的に実施して根気強く成果を積み上げてまいります。